東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)2号 判決
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【判旨】
第二争いのない事実
一特許庁における手続の経緯
(一) 昭和四四年一二月二九日 原告は「HYCEL」の欧文字を活字体で横書きした商標について、第一〇類「実験用ガラス器具および化学実験のため熱を供給する実験用電気ヒーターその他本類に属する商品」を指定商品として商標登録出願
(二) 昭和四七年九月二五日 指定商品を「実験用ガラス器具および電気ヒーターを内蔵する化学実験用機械器具その他本類に属する商品」と補正
(三) 昭和四八年八月二〇日 拒絶査定
(四) 昭和四八年一二月二一日 審判請求
(五) 昭和四九年一二月二六日 指定商品を「化学実験用機械器具および医療機械器具」と補正
(六) 昭和五〇年八月一四日 「本件審判請求は成り立たない」旨の審決
(七) 昭和五〇年九月一一日 審決謄本送達
二審決理由の要点
本願商標の構成、指定商品、出願日は前項(一)のとおりであり、指定商品の補正の経緯は前項(二)および(五)のとおりである。
ところで、原査定引用の登録第七五三八五七号商標は、「HYSIL」の欧文字を左横書してなるものであつて、昭和三八年一二月四日登録出願され、昭和四五年四月二一日その指定商品を第一〇類「理化学機械器具その他本類に属する商品但し医療機械器具を除く。」としてその登録がなされたものである。
そこで本願商標と引用商標との類否について判断すると、両者はその構成からみて、外観上は互に区別することができ、また、両者は共に格別の観念を生ずるとはいえず、観念の類否については判断する必要がない。そこで両者の称呼を比較すると、それぞれを構成する文字により、本願商標は「ハイセル」、引用商標は「ハイシル」の称呼を生ずることが明らかである。そして、両称呼は、その構成音四音のうち称呼による識別上重要な要素を占める語頭部の「ハイ」と末尾音「ル」の三音までを共通にし、異なるところは第三音が「セ」と「シ」であるにすぎない。しかしこの異なるところもサ行の同行音であつて、その音質を同じくする比較的近似の音であるから、両者を全体として称呼したときは相紛らわしく、彼此誤つて聴取されるおそれがあるといえる。してみれば、本願商標と引用商標とは、称呼において類似するから、互に類似の商標である。
また、本願の指定商品のうち「化学実験用機械器具」は、引用商標の指定商品のうち「理化学機械器具」に包含されるから、両者はその指定商品においても同一または類似である。
以上によれば本願商標は、商標法四条一項一一号に該当し、登録を拒絶すべきである。
第三争点
一原告の主張(審決を取消すべき事由)
本件審判手続には次のような手続上の違法があり、この違法な手続にもとづいてなされた本件審決は取消されなければならない。
原告は、本件審判段階において、前記第二、一、(五)のとおり指定商品を補正した。この指定商品の補正は、まず類区分が全く欠落している。また指定商品を「化学実験用機械器具」と表示しているが、これは客観的には商品名とはいえないし、また商標法施行規則三条の別表の大分類、中分類の包括概念のいずれにも該当しない表示である。したがつて、右補正は、指定商品の特定が極めて不明瞭な補正であるというほかはない。
このような不明瞭な補正がなされた場合、審判官は、商標法五六条で準用する特許法一五三条一項により、出願人に対して釈明を求めるべきである。しかるに本件審判手続では次のような求釈明は全くなされていない。
また「化学実験用機械器具」という不明瞭な指定商品につき、出願人の意図を無視して、審判官が勝手にそういう商品名と判断して審理、審決したのは、審判請求人が申立てない請求の趣旨について審理したことになり、商標法五六条、特許法一五三条三項に違背する。
更に、審判官が「化学実験用機械器具」を第一〇類の商品と判断して審理したのであれば、商標法五六条、特許法一五三条二項により、原告に意見書提出の機会を与えるべきであつたのに、そのような手続は全くなされていない。
二被告の答弁
本件審判手続には、原告主張のような手続上の違法はない。
本願出願時において、本願の指定商品の商品の区分は第一〇類に確定していた。したがつて、その後の指定商品の補正において、商品区分の記載を欠いたからといつて、これにより既に確定している商品区分が不明確になつたということはできない。また補正された指定商品のうち「化学実験用機械器具」は、商品区分第一〇類の「理化学機械器具」およびその下位概念である「実験用機械器具」に属することは明らかである。してみれば、指定商品の補正の結果、商品の区分および商品が不明確になつたということはありえないから、これを前提として審判手続の違法をいう原告の主張は失当である。
第四争点に対する当裁判所の判断
一原告が、本願商標についての指定商品および商品区分である第一〇類「実験用ガラス器具および化学実験のため熱を供給する実験用電気ヒーターその他本類に属する商品」を、審判請求後の昭和四九年一二月二六日に「化学実験用機械器具および医療機械器具」と補正したことについて、原告は、右補正における指定商品の特定が極めて不明瞭となつたもので、これをそのまま審理した本件審判手続には、商標法五六条、特許法一五三条一項ないし三項の手続上の違法があると主張する。
そこで右補正が果して指定商品の特定が不明瞭な補正かどうかについて検討する。
まず右補正において、商標法六条一項により定められた同法施行令一条の商品の類区分が欠落しているとの点であるが、<証拠>によれば、右補正は指定商品のみを対象としており、類区分は当初のものを維持する趣旨と考えられるうえ、当初の指定商品は、第一〇類に属するすべての商品であるから、その補正は当然第一〇類の範囲内でなければならないこと、及び右補正における指定商品である「医療機械器具」は、商標法施行規則三条の別表第一〇類の中分類に明記され、更に「化学実験用機械器具」も次に述べるとおり、右別表第一〇類の中分類の「理化学機械器具」および小分類の「実験用機械器具」に含まれることは明らかであることからいつて、右補正において類区分が欠落し、これによつて右補正が不明瞭なものとなつたということはできない。
原告は、右補正における指定商品である「化学実験用機械器具」は、客観的には商品名とはいえないし、また右別表の大分類、中分類の包括概念のいずれにも該当しないと主張する。なるほど「化学実験用機械器具」の文字は右別表に記載はされていないが、これが右別表第一〇類の中分類である「理化学機械器具」および小分類の「実験用機械器具」に属することは、右小分類の例示として、試験管、フラスコ、ビーカーなど、化学実験にも用いられるガラス製の器具の総称ともいうべき「実験用ガラス器具」が掲げられていることから明らかである。
以上によれば、右補正において、指定商品の特定が不明瞭であるということはできないのであつて、これを前提として、特許法一五三条一ないし三項を引用して審判手続の違法をいう原告の主張は、前提自体失当であるから、採用できない。
(小堀勇 舟本信光 石井彦壽)